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Surface chemistry for synthesizing porous nanographenes by CH4 activation

 

酸化物ナノ粒子表面での触媒的メタン分子活性化によるナノ多孔質グラフェン合成 初期反応機構を解明
Activation of CH4 on the Surfaces of Oxides Nanoparticles for the Synthesis of Nanoporous Graphenes

 

Chemical Science 2022, 13, 31403146   

 


 

Cover_Picture Porous Nanographene Formation on γ‒Alumina Nanoparticles via Transition-Metal-Free Methane Activation

 

Masanori Yamamoto, Qi Zhao, Shunsuke Goto, Yu Gu, Takaaki Toriyama, Tomokazu Yamamoto, Alex Aziz, Rachel Crespo-Otero, Devis Di Tommaso, Masazumi Tamura, Keiichi Tomishige, Takashi Kyotani, and Kaoru Yamazaki
Chemical Science 2022, 13, 3140‒3146
DOI: 10.1039/d1sc06578e

 


 

グラフェン (graphene) は炭素の6員環構造が2次元平面上に広がる材料であり、特異な物理特性を有することから広く研究されています.[1] この平面に炭素からなる5員環を導入すると、正の曲率を有する球体(0次元材料)としてのフラーレン (fullerenes) が得られます.[2] また、2次元状のグラフェンを筒状に折り曲げると、1次元材料としてのカーボンナノチューブ (carbon nanotubes) となります.[3] これに対して、7員環や8員環のような構造欠陥をグラフェン面内に導入することで負の曲率を付与した極小曲面規則性3次元グラフェン材料については、Mackayらが1992年にその存在をNature誌に報告しています.[4]

 

 

極小曲面規則炭素材料に関する図、並びにアルミナナノ粒子へのメタンCVDの速度論解析の図 | 山本雅納

 

 

Figure 1. 酸化物ナノ粒子上でのメタン活性・三次元グラフェン合成の反応速度論解析 (RSCより許諾を得て掲載).

 

 

しかしながら、合成上の困難さから、いまだに理想的規則性3次元グラフェン材料の合成は報告されていません.

 

これに準ずるものとしては、東北大学・多元物質科学研究所の京谷隆教授が報告している「ゼオライトを鋳型」にしてプロピレンなどを気相炭素源とした「化学気相成長 (chemical vapor deposition, CVD) 」により調製した炭素材料 (zeolite-templated carbon, ZTC) があります.[5] このZTCでは、鋳型のゼオライトの構造規則性を転写・反映した1.2 nm毎の周期構造をXRDにより確認することができますが、ラマン分光法や脱ガス分析から得られる情報からは、"グラフェン"というよりも欠陥を多く含むアモルファス炭素と考えられます. 他方、森下隆広および稲垣道夫らは、酸化マグネシウム (MgO) などの酸化物を鋳型にCVDを行うと、高品質の3次元グラフェンを与えうることを報告しています.[6] 反応性に富むガス[7]を炭素源として使うのではなく、化学的に安定なメタン (CH4) を用いることでグラフェンの品質が向上することが分かっています.[8] ZTCの様な構造規則性と、MgO鋳型炭素のような高品質のグラフェンを両立する材料が合成できれば「最小曲面多孔質炭素材料」が合成出来うると考えられますが、現段階では高温でのCVDに耐えうる鋳型は皆無でした(筆者らは、多くの酸化物系ナノ構造鋳型材料が800度以上で構造変化を起こし、構造規則性を失っていることをXRDで確認しています). そこで「CVD反応性の向上による反応温度低減ができればこのような理想的な3次元グラフェン材料が合成可能になる」と考え、本研究では、酸化物鋳型の一つである酸化アルミニウム(アルミナ)ナノ粒子に対するCH4-CVDの速度論解析を通して、反応制御に必要な因子の特定を行いました.

 

具体的には、γ‒アルミナナノ粒子を鋳型に用いた900度でのCH4-CVDの反応速度を解析するとともに、密度汎関数法を用いた計算化学による裏付けを行いました. その結果、次の事柄が明らかとなりました.

 

 

A)  

CH4-CVD反応は900度においてCH4が酸化物ナノ粒子表面を活性化し含酸素分子気体を離脱させながら表面酸素欠陥を与えたのち進行することを見出した. 酸化物ナノ粒子に表面欠陥点を与えることが、CH4-CVDを速度論的に可能にするうえで欠かせないと考えられる.

B)  

このようにして生じた表面におけるCH4活性化反応が遷移金属を使わずとも進行することを実験化学および計算化学的に明らかにした.

C)  

反応速度論解析を行うことで、CH4-CVD反応速度はCH4分圧に擬一次であり、CH4-CVD反応の見かけの活性化エネルギーが124 kJ mol‒1と求まった. この値は、計算化学より求めたCH4の初期解離吸着過程における見かけ上の活性化エネルギー (E = 120 kJ mol‒1) と非常に良い一致を示した.

D)  

炭素化過程全体の律速過程はCH4の初期解離吸着であり、計算化学からも律速過程がCH4の初期吸着解離過程であることが裏付けられた。また電子密度解析より、一般的なルイス酸-塩基機構[9]によるプロトン移動 (PT) が進行することが計算化学から示唆された.

E)  

CH4が酸化物ナノ粒子表面において連続的プロトン移動により反応活性に富む表面メチレン種 (Al=CH2*) を与えたのち、こがれ二量化による炭素-炭素結合形成および引き続く後続反応により炭素化へと繋がる.[10]

F)  

上述の触媒能のため、酸化物ナノ粒子表面での炭素化反応(見かけの活性化エネルギー = 124 kJ mol‒1)は、被覆済みの炭素膜上での炭素化反応(見かけの活性化エネルギー = 308 kJ mol‒1)に比べて2倍以上速く、これにより単層のナノグラフェンを速度論的に作り分けることが可能になることを明らかにした.

 

 

 

 

活性化アルミナ表面へのメタン分子の解離吸着に関するエネルギーダイアグラム | 山本雅納

 

 

Figure 2. 活性化アルミナ表面へのメタン分子の初期解離吸着に関するエネルギーダイアグラム (RSCより許諾を得て掲載).

 

 

以上、遷移金属触媒を使うことなくメタン分子を活性化することにより、酸化物ナノ粒子を鋳型にしたナノグラフェン合成が可能であることを実験・計算の両面から示すことに成功しました[9‒11]。本研究により「高温でメタンと反応することによる表面酸素欠陥生成」が反応の鍵であること、「化学的に安定なメタンの活性化がプロトン移動により促進される」こと、および「プロトン移動過程が炭素化全過程を通して反応律速過程であること」を明らかにしました.[11] 表面欠陥を与えるための表面化学修飾を行うことで、ナノ多孔性を有する鋳型材料上でのCH4-CVDの(プロトン移動を律速過程とする)反応速度を向上させ、これによりより高品質の単層多孔性グラフェン合成が可能になりうると考えます. また、メタン初期活性化反応性の向上は、同時に反応温度低下を可能とします。このことから、本知見を生かした表面化学制御により、メタン直接改質法 (Direct Methane Reforming, DMR) の高効率化や理想的極小曲面グラフェン材料の合成に弾みがつくと考えます.

 

 

本研究成果は英国王立化学会 the Royal Society of Chemistry のフラッグシップジャーナルである Chemical Science誌への掲載が決定しました(英国時間 2022年2月22日付).[12]

 

 

 

アルミナナノ粒子上でのメタン分子活性化および単層グラフェン多孔体の合成に関する図 | 山本雅納

 

 

 

Porous Nanographene Formation on γ-Alumina Nanoparticles via Transition-Metal-Free Methane Activation
Masanori Yamamoto*, Qi Zhao, Shunsuke Goto, Yu Gu, Takaaki Toriyama, Tomokazu Yamamoto, Alex Aziz, Rachel Crespo-Otero, Devis Di Tommaso*, Masazumi Tamura, Keiichi Tomishige, Takashi Kyotani, and Kaoru Yamazaki*
Chemical Science 2022, 13, 3140‒3146, [pdf]
DOI: 10.1039/d1sc06578e
(selected as HOT Article)

 

 

謝辞:

 

本研究は「公益財団法人 荏原 畠山記念文化財団 研究助成(課題名: 極小曲面規則炭素材料に関する包括的研究完成)」、「東北大学附置研究所・センター連携体 若手研究者アンサンブルグラント」および「科学研究費助成事業(日本学術振興会、研究課題番号: 19K15281)」の支援を受けて遂行されました. 寛大なご支援を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます.

 

 

 

この記事に関する問い合わせ:

 

 

  山本 雅納 (Masanori Yamamoto)
  東北大学・京谷研究室(助教)(研究当時)
  多元物質科学研究所 (IMRAM)
 (ハイブリッド炭素ナノ材料研究分野)
  E-mail: yamamoto[at]mol-chem.com

 

 

 

関連キーワード:

 

メタン活性化 メタン直接改質 ナノ多孔性グラフェン 化学気相成長 反応速度論解析 計算化学

 

 

 

2022年02月22日公開

2022年09月29日更新

 

 

 

文献:

 

1.  K. S. Novoselov, A. K. Geim, S. V. Morozov, D. Jiang, Y. Zhang, S. V. Dubonos, I. V. Grigorieva, A. A. Firsov, Science 2004, 306, 666
2. H. W. Kroto, J. R. Heath, S. C. O'Brien, R. F. Curl, R. E. Smalley, Nature 1985, 318, 162163
3. a) S. Iijima, T. Ichihashi, Nature 1993, 363, 603605; b) S. lijima, T. Ichihashi, Y. Ando, Nature 1992, 356, 776778; c) P. M. Ajayan, S. Iijima, Nature 1992, 358, 23
4. H. Terrones, A. L. Mackay, Nature 1991, 352, 762763
5. Z. Ma, T. Kyotani, A. Tomita, Chem. Commun. 2000, 23652366
6. a) M. Inagaki, S. Kobayashi, F. Kojin, N. Tanaka, T. Morishita, B. Tryba, Carbon 2004, 42, 31533158; b) T. Morishita, T. Tsumura, M. Toyoda, J. Przepiorski, A. W. Morawski, H. Konno, M. Inagaki, Carbon 2010, 48, 26902707; c) M. Inagaki, M. Toyoda, Y. Soneda, S. Tsujimura, T. Morishita, Carbon 2016, 107, 448473
7. Y. Tian, X. Zhu, M. Abbas, D. W. Tague, M. A. Wunch, J. P. Ferraris, K. J. Balkus, ACS Appl. Energy Mater. 2022, 5, 68056813
8. M. Yamamoto, S. Goto, R. Tang, Y. Hayasaka, Y. Yoshioka, M. Ito, M. Morooka, H. Nishihara, T. Kyotani, ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 3861338622
9. A. Matsuda, H. Tateno, K. Kamata, M. Hara, Catal. Sci. Technol. 2021, 11, 69876998
10. Q. Zhao, M. Yamamoto, K. Yamazaki, H. Nishihara, R. Crespo-Otero, D. Di Tommaso, Phys. Chem. Chem. Phys. 2022, in press; DOI: 10.1039/d2cp01554d
11. ラジカル的な水素原子移動反応を含む電子移動過程が律速である可能性は排除できませんが、計算化学による相補的な検討から、活性アルミナ表面における多段階メタン活性化においては初期プロトン移動反応が律速過程であると考えます.
12. M. Yamamoto, Q. Zhao, S. Goto, Y. Gu, T. Toriyama, T. Yamamoto, A. Aziz, R. Crespo-Otero, D. Di Tommaso, M. Tamura, K. Tomishige, T. Kyotani, K. Yamazaki, Chemical Science 2022, 13, 3140‒3146