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Dye-Sensitized Photoelectrochemical Water Oxidation

 

有機分子による人工光合成 / Dye-sensitized photoelectrochemical water oxidation

 

人類のエネルギー消費速度は1013 Wの水準に達している.[1] その大部分は化石燃料の燃焼により供給されているが, 化石燃料は資源量に限りがあることからこれに代わるエネルギーの利用が将来的に不可欠である. この点, 地表に降り注ぐ太陽光は平均1015 W程度が現実的に利用可能とされていることから, 太陽光エネルギーの資源化が期待できる.[1] 光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池はすでに商業化が達成されている. その一方で, 地表に豊富かつ安価に存在する水を電子源に利用することで光エネルギーを化学エネルギーの形で蓄える人工光合成については, いまだ発展途上である: 1972年に本多藤島効果が報告されて以来, 無機酸化物半導体による光電気化学的な水の酸化反応が検討されてきたが, 太陽光は可視光を多く含むことから, 反応性と可視光応答性の両方から優れた系の構築は実用化に向けて欠かせない課題である. この点, 有機色素は可視光応答性に優れ, またその光物理的性質ならびに電気化学的性質を精密な分子設計により調整が可能なことから, 光捕集材料として期待できる. 2009年, ペンシルベニア州立大学のThomas E. Malloukらは, イリジウム酸化物ナノ粒子を酸素発生触媒に, トリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II) 錯体誘導体を光捕集系に用い, これらを酸化チタン上に適切に配置することで, 可視光駆動による光電気化学的水分解を実現している.[2]

 

水の酸化触媒としては, 高い反応速度 (触媒回転速度) をできるだけ小さな過電圧で実現できるものが好ましい. なぜならば, 可視光1個で駆動される反応ではせいぜい2~3 eV程度のエネルギーしか利用できないために過電圧があまり確保できないからである. この点, スウェーデン・王立工科大学のLicheng Sunらによって報告されているルテニウム系分子触媒が熱力学的・速度論的特性から優れている (1および2, Chart 1). ノースカロライナ大学チャペルヒル校のT. J. Meyerらの報告によれば, 分子触媒2による電気化学的な酸素発生のファラデー効率は100%と良好である.[3]

 

Chart 1

 

Chart 1 | 高い水酸化活性を有する分子触媒 (1 and 2) および一般的なルテニウム増感剤 (RuP2+).

 

増感色素としては, 可視光応答性に優れること, および界面電子移動のメディエーターとして働くことで電気化学的に水の酸化を促進することが求められる.[4,5] 従来用いられてきたルテニウム系増感色素はプッシュプル構造を有することから界面電子移動に有利な一方, 可視光応答性に乏しいという問題があった. これに対し, 京都大学の今堀らは有機色素を光捕集系に用いた可視光駆動人工光合成系の構築に成功している (Chart 2).[6,7]

 

Chart 2

 

Chart 2 | サブポルフィリンを増感色素に用いた可視光駆動水分解

 

触媒から色素への分子間電子移動がナノ秒レーザー過渡吸収によって確かめられているとともに, 18-Oで標識された水の光分解により18O2の生成がGC-MSにより確認されており, 可視光 (600 nm > λ > 420 nm, LED光源) 駆動の光電気化学的水分解が実証されている. しかしながらこの場合は, 酸化チタンのフェルミ準位が白金対極での水素還元を駆動するのに十分な電位でないことから, 大きな光電流を得るには外部バイアスの印加が必要であった. これに対し, スウェーデン・王立工科大学のLicheng Sunらは分子増感剤と分子触媒によるタンデム型セルにより水の完全分解を実現している.[8] 光アノードとしてはn-型半導体である酸化チタン上に水酸化分子触媒と増感分子を吸着させたもの, 光カソードとしてはp-型半導体である酸化ニッケル上に水還元分子触媒と増感分子を吸着させたものを用いることで, 外部バイアスを印加しない条件下, 最高25%の量子収率 (380 nm) を実現している.

 

以上, 分子触媒の性能向上を受けて, 分子による人工光合成 (可視光を利用した分子による水の完全分解) が実現している. また, 可視光応答性に課題が残るものの, Z-スキーム型の光電気化学セルも報告されている. 今後としては, 界面での分子の酸化的分解[7,9]を抑制することが耐久性の向上に欠かせない. また, 界面での再結合がアセトニトリル中に比べて水系で加速されることが分かっており,[7,10] 高効率化には界面での逆電子移動の抑制が重要である. このように, 水性界面における有機分子の耐久性と機能化の両立が目下の課題である.[11]

 

追記: 最近, アナターゼ型ではなくルチル型の酸化チタン上にRuP2+を吸着させることで水性界面での再結合速度を1 ms程度まで抑制できることがイェール大学のJ. R. Swierkらにより報告されている.[12] また, コア‒シェル構造の金属酸化物材料が再結合抑制と光電流密度の増大に有効である.[13] 有機‒無機複合材料を扱う本研究領域において, 界面再結合抑制の観点から無機電極材料の最適化が有望なようである.

 

2016年11月18日更新

 

文献

1. Lewis, N. S. & Nocera, D. G. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 1572915735 (2006).
2. Youngblood, W. J. et al. J. Am. Chem. Soc. 131, 926927 (2009).
3. Sherman, B. D. et al. Inorg. Chem. 55, 512517 (2016).
4. Gao, Y., Ding, X., Liu, J., Wang, L., Lu, Z., Li, L. & Sun, L. J. Am. Chem. Soc. 135, 42194222 (2013).
5. Sheridan, M. V., Sherman, B. D., Fang, Z., Wee, K.-R., Coggins, M. K. & Meyer, T. J. ACS Catal. 5, 44044409 (2015).
6. Yamamoto, M., Wang, L., Li, F., Fukushima, T., Tanaka, K., Sun L. & Imahori, H. Chem. Sci. 7, 14301439 (2016).
7. Yamamoto, M. et al. Chem. Commun. 52, 1370213705 (2016).
8. Li, F., Fan, K., Xu, B., Gabrielsson, E., Daniel, Q., Li, L. & Sun, L. J. Am. Chem. Soc. 137, 91539159 (2015).
9. Hyde, J. T. et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 7, 95549562 (2015).
10. Knauf, R. R., Brennaman, M. K., Alibabaei, L., Norris, M. R. & Dempsey, J. L. J. Phys. Chem. C 117, 2525925268 (2013).
11. Yamamoto, M. & Tanaka, K. ChemPlusChem 81, 10281044 (2016).
12. Swirk, J. R., Regan, K. P., Jiang, J., Brudvig, G. W. & Schmuttenmaer, C. A. ACS Energy Lett. 1, 604606 (2016).
13. Sheridan, M. V. et al. ACS Energy Lett. 1, 231236 (2016).

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